初恋

恋は最初じゃないのに巡り会うたびこわい

「僕じゃなきゃ In your heart」

「デビューが決まったら、いっちばん後ろの天井に入っておっきくなったねって泣いて、それからいっちばん前の席に入って、やっぱり変わらずこの人が大好きだなって泣きたいんだよね」

そんな馬鹿げた夢を一緒に語った友人は隣にはいなかったけれど、そんな夢を叶えてきました。


デビューコンサートツアー。

彼にとって人生で最初で最後。たぶん、わたしにとってもこんなに好きな人のそんな晴れ舞台を観るのは最初で最後。

本当に心の奥底から楽しみだけど、座席が分からない不安とかほんの少しの寂しさとかで情緒不安定な1ヶ月を過ごしてました。妙にハイになったり突然泣き出したり、完全にメンヘラのそれだった。ぶっちゃけ黒色の便が出たとき、「あ、やべ、リアルに胃潰瘍できたんだな…………」ってトイレでひとりで笑った。ぶっちゃけまじ不気味なメンヘラだったと思う。たぶん一般の人にはまったく理解できないストレスをガチンコで抱えながら、来るべきときを待ってた。


空中からなんかすごいお金のかかってそうなセットで降りてきた岸くんを見た瞬間、耐えきれなくて泣いたのは覚えてる。残念ながら感極まりすぎて、岸くんがどんな顔で前を向いていたかはっきりは思い出せないけど、だけどわたしにとって彼が誇らしい存在で眩しすぎたことだけは何故かすごくよく覚えてる。


彼が3人で活動していたときの曲、6人が今とは違う名前のグループで頑張っていたときの曲、彼がSexy Zoneの後ろで何度も何度も歌番組でもコンサートでもやってきた曲、いろんな曲をやってくれて、彼との思い出が走馬灯みたいに駆け巡って、あ〜〜わたし死ぬのかな?ってあの2時間半の間に5回は思った。

何度も横浜アリーナというステージに立ってる岸くんをこの目で見詰めてきたはずなのに、そこにいる岸くんはテレビの画面越しにいるような、手を伸ばしても触れなさそうな、そんな感覚に陥った。ああ、そういえば彼はあの知らない人はいないジャニーズ事務所からデビューしたんだった。馬鹿みたいだけど、そんな現実を思い知って、一番前の視界良好な席でそんなことを薄らぼんやり肌で感じてた。そんなわたしの気持ちを助長するみたいに、わたしの周りでは岸くんの顔が公式でプリントアウトされた団扇がたくさん揺れていた。


またその翌日わたしの手元に舞い降りたぺらぺらの紙はスタンド後列の番号が記載されていた。予定してた、やりたかった順番とは違うけれど、わたしの夢叶っちゃったと仲良しの友人にLINEで語りながら席へと向かった。

スタンドトロッコがこっちに向かってくるとき、またわたしの前にテレビの画面が立ち塞がる気がして震えてた。もうこれ以上、現実が見たくない。幻でいいから、岸くんを「好きな人」として見たい。そんなことを思いながら出してたわたしの団扇を見た岸くんは、今までと何も変わらない笑顔で優しい目で「おう!」とわらった。そのとき、わたしと彼のあいだには液晶画面なんて、存在しなかった。ちゃんと彼はそこにいた。


事務所と世間の彼らへの期待度を示すみたいに、たくさん新曲が用意されていて、惜しむことなくいろんな演出が準備されていた。わたしの期待値なんて軽く飛び越えて宇宙まで突き抜けてた。

なにより彼らはお膳立てされたそんなステージ以上に実力を以ってしてわたしたちを魅了してくれた。なにより楽しそうに、それからわたしたちを楽しませたいと、ステージに立ってくれた。

それだけで、わたしが岸くんを想うボルテージ爆上げするには充分すぎたのに、「自分のサイズの自分の衣装が準備されるのは幸せなこと」とぼそっと彼が言ったから、わたしの涙腺はもう一度決壊した。彼が歩んできた努力を知らない人たちが増えても、わたしが忘れないからそれでいいと思えた。


変わらないものなんてない。

永遠だってないのかもしれない。

出会ってからこれまでわたしは岸くんと過ごしているけど、岸くんはわたしと過ごしてるわけじゃない。だからすべて幻だと、ふとした瞬間に気づくかもしれない。

でも幻でいいから、ずっと岸くんを好きでいたい。わたしは永遠を信じたいし、岸くんがもっとでっかいグループにするって言ったから信じようと思う。いつか液晶画面がわたしの目の前から消えなくなっても、わたしは彼が大好きだと言いたい。


「僕じゃなきゃ In your heart」

そうやって他でもない岸くんが歌ってくれるから、このままいつまでも。

そう自分に願います。